万能ドライヴBORDERS
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ひとつの未来 [ - 03 - ]


 天井の高い、広大な部屋が彼女を迎えた。木箱があちこちに転がっている。どこかの工場か、倉庫のような雰囲気だ。空気は相変わらず冷たく、緊張感を否が応にも高める。
 奥に、二つの出入り口があった。少女はマントの中に右手を突っ込みながら、左の出入り口に向かう。
 出入り口を注意深く見ると、ドアが開きっぱなしで凍りついたようだ。ドアはスライド式で、出入り口の横、幅の薄い壁の内側に納まっている。
 視線を奥の部屋にやる。その部屋の中央には、鈍い銀色の大きな塊が氷に覆われて横たわっていた。近づいてみると、氷が厚くてよくわからないが、何かのボタンのような、色つきの四角いものが見える。
 ふと、つまづきそうになり、足もとを見る。すると、氷の出っ張り下に、コードの束が見えた。
 それは、あの銀色の塊に続いている……
「きみはもう、大体わかっているようだね」
 突然、声がした。
 氷に包まれた金属の塊の上に、奇妙な姿が腰掛けている。淡い灰色のマントとフードを着込んだ姿。
「<無関心者>」
 アメルスは相手が出てくるのがわかっていた様子で、呼んだ。呼ばれた方は、性別不明の澄んだ声で答える。
「ここは魔法都市ではなかった……いや、魔法とやらの定義にもよるがね。とにかく、ここはうるさくて仕方がない。下に来るといい」
「きみは……」
 アメルスが呼び止めようとした時には、すでに<無関心者>の姿はうそのように消え失せていた。
 溜め息とともに、アメルスは言われた通りに下へ行こうと、部屋を出る。出るなり、冷たい床を転がる。光線が上を行き過ぎた。
「ここはうるさい、か」
 苦笑し、マントの中に入れたままだった手を伸ばす。今の一撃で、相手の居場所は読めた。
 ドシュッ!
 漆黒の改造型レマット・リヴォルバーの銃口から発射された弾丸は、ある木箱を貫通し、その向こうの人物の横の壁に当たった。わざと狙いは外したが、命中しなかったとしてもある程度のダメージを与えられる炸裂弾である。
 銃を手にしたまま、もう一つのドアへ走る。周囲の気配を探りながら、奥の部屋のなかへ。
 その広い部屋の奥には、半透明な、大きなチューブが天井から床下まで通っていた。それだけは、氷に包まれていない。
 これが、地下へのゲートか。
 そう理解して、歩み寄る。
 だが、背後に迫る闘気は、それを許さなかった。
 足を止め、振り返りざまに、リヴォルバーを右手ごと持ち上げた。乾いた音が、わずかに冷たい空気を震わせる。
 渾身の斬撃を銃身で受け止められ、サフィスは一旦身を引いた。その表情には、攻撃をいなされた驚きよりも、未知の武器に対する警戒の色が大きい。
 しかし、間合いを取ったアメルスは何を思ったか、拳銃をホルスターに納めた。そして、マントとホルスターの留め金を外し、部屋の隅に放り投げる。腰に吊るされたのは、刀一本だった。
「剣で決着をつけるのか……おもしろい」
 抜き身の刀をかまえる少女と、サフィスは同じかまえを取った。
 冴え冴えと澄み渡る鋭い視線と刃が、交差する。高い金属音が鳴った。
「ふっ!」
 息を吐き出し、サフィスは体重をかける。腕力に劣るアメルスは間もなく飛び退き、刃を引いた。そこに、剣士は追撃をかける。
 その視界から、突然少女が消えた。彼は気づき、慌てて足払いから逃れる。
「はっ!」
 攻守が逆転した。斬撃ではなく、得意の突きだ。その小さな体から繰り出されたと思えないほどリーチの長い攻撃だと、サフィスは知っている。
 そのリーチは、瞬間の突進により生み出されることも。
 わずかに身体の角度を変え、左肩を貫かれるのに任せながら、相手の突きに添うように彼も突きを放つ。
 わずかに剣先に手応えがあった。
 二人、飛び退いて間合いを取る。
「割に合わないな……」
 肩を抑え、サフィスはぼやく。
 アメルスは左のこめかみから血を流していた。目に入る血を邪魔そうにぬぐっているが、左肩のダメージとの引き換えにしては、確かに同等とは言えない。
 しかし、アメルスも攻めあぐねている様子だった。得意の突きは読まれている。かといって、サフィスの教えた斬撃も使えない。
 勝機はあると見て、サフィスは再び仕掛けた。視界の悪いと思われる、向かって右から。
 少女はわずかに、かわすのが今までより遅れた。切り取られた前髪の先が数本、宙に舞う。
 サフィスはたたみかけるように斬撃を繰り出した。それを、アメルスは紙一重でかわしている。動きが鈍った……のだろうか?
 違う、と、剣士は気づいた。その刹那、反撃に転じたアメルスの刀が迫る!
 キンッ!
 火花が散った。刀のつばで相手の攻撃を受け止め、接点を軸に刃を振り、相手の肩を狙う――それは、サフィスが教えたことの一つだ。彼はそれに気づき、刀の腹を打ち払った。
 しかしアメルスは引かず、刃を後ろにやり、柄を突き出すようにして突進する。
「――っ!」
 鈍い音がした。
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