白色の世界(投稿者Z氏)



私にとって世界が滅んでも何も変わらない
私にとって隣に立つ人が死んでも何も変わらない
何故なら私にとって世界も隣人も同じだからだ

日本刀を手にした少女が控え室から出るとそこは長い廊下になっておりその先には光が在り少女は光へと歩き出す

その少女を一言で言い表せば『白』
まるで日の光に晒したことの無いような白い肌に
白色の装束を纏い
無機質で穢れのなくそれでいて儚げな雰囲気を漂わせており
それら全てが少女を『白』と印象付けていた
ただ、瞳と腰まで伸びた髪の色だけは相反する様に黒く、少女の『白』という印象をより強めていた

長い通路を歩き終えるとそこには床一面が白砂で被われた六角形の闘技場が存在していた
『地下闘技場』それがこの場所の呼び名である

野次と歓声が飛び交う闘技場に足を踏み入れると
そこには3m以上ある大男と審判が少女を待っていた
少女が2人に近づくと審判はなんの前触れもなしに合図を出す
「レディ・・・・・ファイ!!!」
試合開始の合図で男は手に持っていた斧を頭上に掲げ構えを取り
両手持ちにし渾身の力を込めて振り下ろす
振り下ろされた斧が少女へと当る瞬間、少女は体を捻ってそれを避わし斧は地面へとめり込む
そして少女は地面へとめり込んだ斧へと飛び乗りそのまま男の腕を伝って登っていく
「行くよ、淡雪(あわゆき)」
呟く様に刀の名前を囁いた少女は手にしていた日本刀を逆手で抜刀
男の右頚動脈を切り裂く
飛び散っていく男の血を横目で見ながら少女は男の喉元に淡雪を突き刺し宙へと舞う
そのまま全体重を柄にかけ下方向に一気振り下ろす
振り下ろされていく淡雪は男の胸、腹、股間と裂いていき男の体を半分に両断していく
両断した少女が振り返ると男の皮膚は剥げ、その内臓を外に曝している
それを見ていた少女はある一点を凝視する
肋骨と肺の奥にある心臓を
そして少女は男の心臓の周囲に繋がっている血管を全て切り落としていく
次の瞬間、男の体からまるで噴水の様に血が吹き出し少女へと降り注ぐ
一瞬だった
試合が始まってからものの数十秒で勝負が決まり場内の歓声は一層高まっていった
男の生命が消え逝く中で少女はゆっくりと目を瞑り悦った
人形以上に無機質な少女は今初めて人間らしさを見せてくれた
目を瞑っていた少女の耳から周囲の音が消えていき
目を開けるとそこに映るのは血を流す男だけになる
それ以外のものは全て白色の背景となっていく
無音と白色背景が支配する世界になった時少女は呟く
「雪月花」
少女が名づけた唯一の技だった
いや、技とは呼べないだろう
飛び散る血が花びらのように見え
妖しく光る淡雪が月のように見え
血を浴びる自分が雪のように見え
どこかで聞きかじった知識を使い
この光景を美しいと思ったから『雪月花』と名づけた
ただそれだけだった
そして、生命を失った男は膝から崩れ落ちていき周囲の音と背景も戻っていく
お気に入りの光景を愉しんだ少女は闘技場を去って行く

闘技場を後にした少女が長い廊下に戻ると壁に身を預けている青年に目がいく
「よう、今日も勝ったみたいだな。雪」

『雪』それがこの地下闘技場での少女の呼び名である

青年は少女の姿を確認すると激励の言葉を送る
しかし、雪は彼の言葉を無視しその姿を背景と同化させていく
「って、こら。無視するなよ、おい」
雪は廊下の奥へと歩き出す

彼の名前は『蒼』
人の出入りが激しいこの地下闘技場では珍しく長く生き残っている人物である
性格は陽気で気さくであり誰とでも話しやすくこの地下闘技場ではこれもまた珍しい性格の人間である

自らの言葉が無視されると蒼は歩いていく雪の背中に言葉を投げる
「いいか、皆はお前の事がこの地下闘技場最強だと言っているが俺は認めないぞ――」
蒼の叫びを無視して、雪は廊下の奥へと歩いく

「今日も無事に勝ったみたいだね、雪」
広いロビーへと出た雪はスーツ姿の男性の声に反応する
彼こそが雪の雇い主、竹内 大地である
大地の姿を見付けた雪は彼に近づく
「また、愉しんできたのかい?」
血に塗れている雪の姿を見た大地がそう尋ねると雪は儀礼的な謝罪の目を大地に向ける
それを見た大地は微笑を浮かべる

雪は大地の雇われ人である
大地によって拾われた雪は一振りの日本刀―淡雪―と地下闘技場で生きる権利
それと『雪』という名前を貰った

「別にいいさ、服はまた新しいのを用意すればいい。それより、今日の試合で20勝だったね、何を望む?」

これは地下闘技場でのルール
『雇われ人は一定の勝利数を収めるごとに雇い主に対して願いを要求できる』だ

それを聞いた雪はゆっくりと口を開く
「外の世界を・・見たい」
雪の願いを聞いて大地は驚く
雪は普段から何も望まない
それが今、久しぶりに願いを口にしたのである
大地は嬉しく感じたがゆっくりと首を振る
「やめた方がいい。外の世界なんて、見ない方がいい」
願いを否定された雪はつい俯いてしまうが
すぐに別の願いを口にする
「じゃあ、雪・・・雪が見たい」
静かに紡ぎ出された雪の願いに大地は笑みを浮かべる
「雪か、いいだろう」
大地の返事に雪は注意してみないと解らない程微細な笑みを浮かべていた

「もう取っていいよ」
大地の言葉で雪は目隠しを解いていく
目隠しを取った雪が最初に見たのは白だった
いや、次に見えたのも白だった。白、白、白
どこを見渡しても白色の雪原がそこに広がっていた
見上げれば灰色の空
その空からは雪が降っている
「うわぁ・・・」
その光景に雪は両目を少し見開き、感嘆の声を上げる
「しばらくここで遊んでなさい」
大地の言葉で雪はゆっくりと歩き出す
しばらく歩いた所で雪は目を瞑り、両手を広げ降り注ぐ雪を一心に浴びていく
雪はその場で回り始める
回りながら雪はそっと目を開く、見えるものは白色の世界
降り注ぐ白い雪、一面を被い尽くす白い雪、雪を降らせる灰色の空
雪は思わず悦った

回り続けていた雪にはある一つの衝動が芽生えていた
その衝動は雪が目隠しを取った時から芽生えており
雪は衝動に突き動かされる様に
そしてその衝動が消えない様に悦いながら回り続けていた
いつまでも・・・

「レディ・・・・ファイ!!!」
雪は目の前に立つ対戦相手を見る
「まさかこんな形でお前と決着をつけるとはな」
そう言う対戦相手―蒼―は手にしていた三叉槍を構える
それに合わせて雪も淡雪を抜刀する
地面の砂が舞い上がるほどの勢いで蒼が三叉槍を突いて来るが雪は冷静に受け止めた
三叉槍を受け止めた事で鍔迫り合いになると思われたが
突如、青白い閃光が走り三叉槍の周囲が爆発する
爆発で雪は吹き飛ばされてしまう
体勢を立て直した雪は蒼の姿を見据える
「雪、一度しか言わないぞ。受け止めるだけでは俺のDEは避けれないぞ」
(あれがDE、三叉槍の先を爆発させる技?違う、だったら先が壊れているはず)
雪は先程の爆発の正体を見抜こうとする
(とにかく、先で何かを爆発させているのは事実、受け止めなければ)
DEが何なのか見抜けない雪に向かって蒼はまたもや三叉槍で突いてくる
それを雪はしゃがんで避ける
冷静に雪の行動を見ていた蒼は雪の背中を突こうとする
気配だけでそれに気づいた雪は反射的に淡雪を背中に回し三叉槍を受け止める
「何度も言わすな、受け止めては避けれないぞ」
三叉槍が爆発する瞬間、雪は先程よりも一歩前に踏み出し爆風を利用して蒼に切りかかる
しかし、舞い上がる砂に視界を奪われ蒼の位置を正確に掴めず雪の攻撃は失敗してしまう
そして、蒼は三叉槍の柄尻で雪の顎を殴り飛ばす
「くっ・・・」
そのまま吹き飛ばされた雪は空中で体勢を立て直しながら着地、淡雪を構える
「雪、これで終わらせてやる」
(くっ、砂に視界を奪われなければ・・はっ)
(解った、DEの正体が)
遂に雪はDEの正体を見抜く
(多分、舞い上がる砂に三叉槍から出した電撃で着火させ粉塵爆発を引き起こしている。だったら)
DEの仕組を理解した雪は蒼に向かって再度攻撃をする
蒼は雪に向かって三叉槍を突き出し、雪はそれを正面から受け止める
「だから、受け止めては」
蒼がDEを発動しようとした瞬間、雪は自分の左手首を三叉槍の刃で切り裂く
「なっ!!」
手首からは血が吹き出し舞い上がる砂を掻き消していく
DEは発動できなかった
「DE、破った」
突然の雪の異常な行動とDEを破られた事により蒼は雪の攻撃に反応ができず
雪は蒼の左頚動脈を切り裂く
そのまま背後に回った雪は続いて右頚動脈も切り裂き
トドメとばかりに蒼の背中に淡雪を突き刺す
「ガハァ」
腹部にまで貫通した淡雪を見て蒼は血を吐き出す
そして、雪の視界はあの無音と白色背景が支配する世界へとなっていき、呟く
「雪月花」
呟くと同時に蒼の体は膝から崩れ落ちていく
飛び散る蒼の血と滴り落ちる雪の血が交わりながら血溜りを作り、殺し合いは終わった

試合が終わったと確認した審判が蒼の生死を確認する為に闘技場に入ってくる
それを見た雪は審判に問いかける
「勝ったら、願いを叶えれるんだよね?」
「えっ、あぁ」
「じゃあ、彼を死なせないで」
突然、今までに類を見ないような望みを言われ審判は驚くが、すぐに救護班を呼ぶ
蒼に突き刺した淡雪を抜きながら雪は自分の取った行動に驚いていた
確かに蒼のことは嫌いではなかった
だけど、死んで欲しくはない、という存在ではなかった
なのに、試合が終わると雪原の時と同じ衝動が走り
この行動に走った
雪は淡雪を鞘に納めると倒れている蒼を見る
そして、声を掛けねばと思うが上手く言葉にできず、衝動のまま口にする
「生きて、また戦って」
そう言って雪はその場を後にした

後に雪は、あの時の衝動は雪原を、外の世界を見たせいだと解釈した
そして、雪にとって外の世界への関心とその衝動は徐々に大きくなり始めていた
しかし、雪は気づいていなかった
その衝動が地下闘技場の存在を脅かす程の大事件を発生させる引き金となるとは・・・
だが、それはまた別のお話である